卵と壁(三訂修正版)

 表題の「卵と壁」とは、エルサレム賞の授賞式での記念講演で、村上春樹さんが使った比喩です。
 ガザ地区への攻撃に対する抗議の渦巻く中、イスラエル文学賞の受賞が決まった村上さんに対しては、各方面から批判や要望が出されていたようです。「賞を受け取れば、イスラエル政府に加担することになる」とか、「パレスチナへの連帯を示すために辞退してほしい」とか。
 僕もまた、イスラエルのガザへの攻撃はやりすぎであり非道だと考えていましたし、村上さんは好きな作家なので、この件には注目していました。


 以下は、講演を引用したメディアの記事からの拙訳。テキストは基本的に「エルサレム・ポスト」に基づいていますが、青字部分はTBS緑の字はJapan Today web版紫の字はAP通信から、灰色の字は「ハアレツ」紙掲載の全文と思われる文章(以下、「ハアレツ版」と称する)に基づく訳注です。
 どうやら「エルサレム・ポスト」はイスラエルに都合の悪い表現を省略する傾向があるみたい。考えてみれば、あたりまえの話ですね。迂闊でした。
(2/18追記・wikipediaによると、「エルサレム・ポスト」は右派系、「ハアレツ」は左派系の新聞らしいです)

追記

 普段は閑散としている辺土のブログに、17日だけで約12000ヒットもの皆さんが来てくださって驚愕しています。もっと情報に通じた、もっと英語に堪能な方が、どこかにもっとまとまった内容をアップして下さっているはずだと思うと、冷や汗ものなのですが……。しかしこうなると、僕にもそれなりの責任が生じる気がします。正直に言って英語にはあまり自信が無いので、もし誤訳を見つけた方がいらっしゃったら、ご指摘いただければ幸甚です。また、引用される方は、誤訳の拡散を防ぐためにも、出所がこのブログであることを明記して、責任の所在を明確にしていただければ助かります。何卒よろしくお願い申し上げます。
(2/17 23:18 "So here is what I have come to say"の訳文を追加)
(2/17 23:48 AP通信からの引用を追加)
(2/18 01:10 冒頭の一行を追加。
(2/18 01:10 "anguish by its overwhelming military power"「圧倒的な軍事力によって人々を苦しめる」、"unleash its overwhelming military power"「圧倒的な軍事力を解き放つ」に修正。)
(2/18 夜 「ハアレツ」紙に掲載された全文を参考に、訳文を修正、編集しなおしました(詳細はこちら)。たびたび変更して申し訳ありません。とりあえず、これで更新終了とするつもりです)
(2/18 19:55 "divinity of the individual"「個人の神性」を"dignity of the individual"「個人の尊厳」に修正。エルサレム・ポスト紙記者の聞き間違いと思われます)
(2/20 02:00 ハアレツ版の流れに沿うように字句を修正)

※↓全文が47NEWSに出ましたね。
http://www.47news.jp/47topics/e/93880.php
 ↓翻訳もあります。ちょっと雑な感じの訳ですけど。
http://www.47news.jp/47topics/e/93879.php

(2/22 春樹氏の名声のおかげで、てんてこ舞いの一週間でした。名声があるからこそ春樹氏に反感や異論のある方も多いでしょうし、政治的にもセンシティブな問題なので、戸惑ってもいます。この種のことは本来、僕の任ではないです。議論なども、できればしたくないです。
 現在、スピーチの原文や訳文が広く公開されていることですし、このブログで本来やりたかったことではないので、村上春樹氏のエルサレムでの講演についての更新は、今後停止します。この件に関するコメントへのお返事も、申し訳ないですが原則として控えさせていただきます。
 記事そのものの削除も考えましたが、リンクしてくださっている方が多いので、このまま残しておくことにします。
 みなさん、多くのご意見やお言葉、まことにありがとうございました)

はじめに

  • 2/17:重要な修正があったので書き直しました。村上さんは「エルサレム・ポスト」が引用した以上に踏み込んだ発言をしていました。
  • 2/18:イスラエル「ハアレツ」紙に掲載された全文を参考に、訳文を修正、編集しなおしました(詳細はこちら)。たびたび変更して申し訳ありません。ハアレツ版がおそらく原文そのものだと思われるので、本当ならそれを全訳して掲載したいのですが、著作権上のことを考えて控えました。

  • 皆さんのコメントを拝見していて、いくつか確認しておくべきだと思った点がありました。あらためて申し上げておきます。

 第一に、ここに載っているのは決して「全文」ではなく、各メディアからの引用をつぎはぎしたものであるということ。
 第二に、ここに載っている英文は必ずしも「原文」ではなく、各メディアによる要約や編集というフィルターを通ってあちこち省略された、抄出と言うべきものであるということ。
 そして第三に、僕の翻訳も、各メディアの引用と同様あくまでひとつの解釈であって、村上さんの真意から大きくずれている可能性が多分にあることです。

 このブログに書かれていることが村上さんの「真意」だなんて、留保なしに思ったりしないでくださいね。どうかお願いいたします。