コミさんの日中戦争
- 作者: 田中小実昌
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2004/08/05
- メディア: 文庫
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この本、兵士として中国戦線に送られた経験を元にした、まあ、小説なのですね。
作者は自分のつづる戦場体験が「物語」と化してしまうことをひたすら回避し続けます。だからこの本には「皇軍の栄光」も無く、「軍国主義の暴虐」も無く、「加害者」も「被害者」も無く、「命令」も無く、「銃撃戦」も「死の恐怖」も無く、「平和への祈り」も無く・・・・・・・なにより、それ以前に「戦争」が無い。ただただ、恐ろしく重い荷物をかついで果てしなく続く行軍や、ひどい環境での寝泊りや、常に腹を下している兵士たちの情けない姿があるだけなのです。そうか、これが戦争なのか・・・。
物語化を徹底して避け続ける作者の姿勢は、なんとも潔癖で誠実です。声高に「戦争」や「歴史」を論ずる前に読んでおきたい本だなと思いました。表紙の絵はどこかで見たタッチだなー、とおもったら、漫画家の小田扉でした。