後味の悪いイシグロ的悪夢

 わたしたちが孤児だったころ、イシグロは日本人だった。俺は名探偵で、アキラは日本兵だった。わかるかなあ。わかんねえだろうなあ。イエイ。
 一気に読んでしまったんだけど、カズオ・イシグロの「わたしたちが孤児だったころ」は、作者に振り回された挙句、後味の悪い悪夢を見せられ、後味の悪い現実に引き戻されるような小説でした。「あれ?」と思いながら主人公の幻想につきあううちに、子供の頃から思い描いた世界が砕け散る、いやあな瞬間を見せられてしまう。やっぱりそうかい、とも思うんだけど、やられた、とも思う。名探偵が主人公ということで、もうちょっと痛快な話かと思ったんだけどね。
 「日の名残り」でもそうだったんですが、イシグロさんの小説を読むときは、主人公の語る内容をそのまま鵜呑みにしないようにしなきゃだめなんですね。主人公のモノローグの中に意地悪なイシグロさんが埋め込んだ、世界の真実の姿を見つけようとしなければならないようです。それってある意味、人を喰ってるんだけど、読んでいておもしろいから、まあ、いいです。

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワ・ノヴェルズ)

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日の名残り (ハヤカワepi文庫)

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石黒賢セーターブック

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