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大いなる帝国の大いなる黄昏

ラデツキー行進曲

ラデツキー行進曲

 ようやく読みました。
 落日を迎えつつあるオーストリア・ハンガリー帝国を舞台に、新興貴族トロッタ家三世代の歴史を描いた長編です。
 偉大なものが滅びてゆく様はまことに悲しい。
 帝国の辺境(現在はウクライナ領)に生まれたユダヤ人のロートが、滅び去った祖国への思いを込めたこの小説を発表したのは1933年。解体され共和国となっていたオーストリアも、すでにナチス・ドイツに併合されて消滅し、彼はパリにいました。
 思えば、ハプスブルク帝国では、ドイツ人であれチェコ人であれハンガリー人であれユダヤ人であれ、民族を問わず等しく「皇帝陛下の臣民」であったのです。多文化主義・多言語主義のさきがけといえる政策が、帝国では採られていました。人種・民族を基盤とする国民国家ではなく、一視同仁の君主制国家であったからこそできたことかもしれません。
 ヨーロッパが民族国家・国民国家を中心としたシステムに組み替えられる過程で、皮肉にも多くの人々が祖国を失ってしまったわけです。
 
 1930年代に書かれたにしては、ちょっと大時代で古めかしい小説という感じもしますが、それもまたオーストリアらしくていいかもしれません。佐藤亜紀の元ネタ、と誰かが言ってましたが、なんとなく違う気がします。



 しかし、「ヨーゼフ・ロート」と言おうとすると、どうしても「ヨーゼフ・ボイス」と言いそうになってしまうにゃー。