アメリカの夕方


 毛皮の女が置いて行った、指先の切れるような1千ドル紙幣を手に、私は街に出た。無性にジンが飲みたかった。
 一杯引っ掛けるつもりなら、腹をくくる他無い。街には面倒がごろごろしている。千ドルなんて一晩で消えちまうだろう。女は晴れて、切っても切れない我が依頼人となり、私はお馴染みのトラブルの泥の中に顔を突っ込むってわけだ。

 おい、よせよ、ともう一人の私が言う。これ以上の厄介事は御免だぜ。命が惜しければ、経験から学ぶことだ。その立派な頭はただの飾りか?

「経験から言わせてもらえば」と、私は答える。「酒と女の力に抗って、勝てたためしなんて無いさ」