コーヒーカップ
「君のそういうところが嫌なんだ。許せないんだ」とあなたが言った。
わたしは驚いてコーヒーカップから顔を上げる。
あなたの顔には、怒りよりも疲れがあった。
「わたし……」とわたしは言う。「いま、何を言ったっけ? あなたを怒らせるようなこと言った?」
「真剣に言ってるのか? 本当に何も分かってないんだな、君という女は」
その通りだった。
わたしには、分からない。
ここはどこなのか。あなたは誰なのか。今はいつなのか。わたしは誰なのか。
ニュース速報のチャイムが聞こえる。
ぴんこんぴんこんぴんこんぴんこん。
わたしはただ、驚くしかない。
あなたが怒っていることに。あなたがいることに。わたしがいることに。世界があることに。誰かがテレビを見ていることに。
ぴんこんぴんこんぴんこん。
※「わたし日記」はフィクションです。僕はわたしではありません。