人はいかにしてアメリカ人になるのか。

その名にちなんで (新潮クレスト・ブックス)

その名にちなんで (新潮クレスト・ブックス)

 インド出身の両親から、アメリカで生まれた主人公が、両親への愛情や複雑な思いを抱えながら成長してゆく。
 父親との葛藤や、自由で新しいものを求める気持ちの中で主人公が大人になってゆく様は、なんとなく、典型的なアメリカ小説という感じがします。インド系の作家がインド系の人物を主人公にして書いているものだから、ポストコロニアルっぽいのかなと思ったのですが、そうじゃない。全然インド的じゃない。マイノリティが主人公だからこそかえって、アメリカそのものの姿を描くことになってしまう。アメリカとはそういう国なのですね。
 人はいかにして大人になるか、ということと、人はいかにしてアメリカ人になるのか、ということが、ぴったりと表裏一体になっていて、それこそが、アメリカ的なるものなのでしょう。
 完成度が高く、端正で、非常にウェルメイドなアメリカ文学でした。

 でもなあ、なんかアメリカ文学の教科書どおりなんじゃなかろうかという気がして、物語は面白かったけど、小説作品としての刺激は薄かったです。ジョン・アーヴィングを水で薄めてカレーパウダーをまぶした感じ? そのアーヴィングがインド人を主人公に「サーカスの息子」(バランスは悪いけど、面白かった)を書いてたのも、興味深いことですが。