江戸っ子オヤジの怒り

 


「お嬢ちゃん、ウチはジイさんの代から真っ当に商売してる寿司屋だよ。ポストコロニアリズムの話なんざァ願い下げだ。とっとと出てってくんな!!」
 どんと背中を押されて、がらがらぴしゃんとガラス戸の閉まる音を聞いた。呆然としたまま惰性で二、三歩、ブーツの足を歩道に踏み出す。
 わたしはのろのろとコートに袖を通し、マフラーを巻きなおした。春とも思えない北風が、夕暮れの雲を引きちぎって浜離宮の方へ運ぶ。
 カウンターの上ではまだわたしのお茶が湯気を立てているはずだ。そして、ああ、いまだ箸をつけてもいない、きらきらとしたハマチ。
 JRのガード下で、思う。
 あんなこと、言うんじゃなかったな。

 ※「わたし日記」はフィクションです。僕はわたしではありません。