ニューヨークの一冊
映画監督、俳優として、ニューヨーカーらしい都会的なセンスとユーモアで知られ、ぼくたち全世界のダメ男に共感と羞恥の微苦笑を贈ってくれるウディ・アレンですが、小説(のようなもの?)も書いていて、これがすごくおもしろいんだ。短編集は三冊あるんだけど、その一冊めがこの『これでおあいこ』(原題・Getting Even)です。ユーモアとパロディでいっぱいの短編小説集で、日本で言うなら誰かというと、筒井康隆とか清水義範のパスティーシュ作品に近いですね。古今東西のさまざまな書物の文体や内容のパロディーになってます。
もちろん正直に言って、教養の乏しい、しかも日本人のぼくには分からないようなネタも多いです。教養、世代、国籍、言語、宗教の違いという5重苦で、たぶん2割も理解できてないだろうと思うけど、それでも笑えるし、逆にパロディーの方からアメリカの現実が照らし出されていたりして、「ニューヨーカーにとってこれにはこういう意味があるんだな」とか、「アメリカのユダヤ人にはこういう文化があるんだな」などと思うこともできます。
なかでも僕が好きな作品は、ハードボイルド・タッチの探偵小説で、「神」を探してローマ法王に会いに行ったりする、『ミスター・ビッグ』。
それから、社会人向け教養講座のパンフレットのパロディで、ナンセンスな講義案内が並ぶ『成人講座』。
そして、ラテンアメリカの革命家の手記のパロディで、アレンの監督・主演映画『ウディ・アレンのバナナ』を思わせる『ビバ!バルガス!』、
などなどです。
なお、アレンには同じような短編集として、『羽根むしられて』『ぼくの副作用』の二冊があって、どれも同じようなタイプの作品を集めています。ただ、第三作の『ぼくの副作用』だけは絶版で、なかなか手に入りにくいようです。これ、ぼくは七、八年さがしてやっと古本屋でみつけたんだよね。感動でした。
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