傘がない

　テレビでは、わが国の将来の問題を各党党首が真剣な顔をして論じていますが、けれども、問題は今日の雨です。傘がない。
　いや、正確に言うと、傘はあるんですが、だめなんですね、できればもって行きたくない。すぐ置き忘れてしまうから。
　ぼくが傘を忘れる確率は、これはもうほんとにおそろしいほどで、特に、雨が上がったあとに電車に乗ったりすると、ほぼ100％です。必ずといっていいほど忘れます。
　これはたぶん、脳だか認知能力だかの致命的欠陥なのかもしれない。なんか特殊な病気なんじゃないかと心配になるほど、ほんとにひどいのです。「高い傘を買ったら気をつけるから忘れない」とおっしゃる方もいるようですが、ぼくの場合だめでしょう。傘のイメージ自体が脳裏から消し飛んでしまう。一旦ぼくの注意から消えてしまったものは、これはもうはじめから存在しないのと同じなのです。どんな傘でも無くしてしまうので、いちばん安いビニール傘以外は買う気がしません。
　そして電車を降りた瞬間に気づくんですね。ああ、傘がない。
　

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